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線香花火





「俺達もそろそろ帰るか?・・・って、何してる?」
「帰る前にコレやろうや!線香花火」


哲平の甚平のポケットから取り出された線香花火。
・・・何時の間に用意したんだか。





「どうしたんだ?それ」


大量に買ってきた花火の中に、ひっそりと混じってたような気もするけど・・・。





土手の石段迄歩いて、2人で並んで腰を降ろす。





「奈々ちゃんに貰てん。後で恭ちゃんとすれば?て」
「な、奈々子が・・・?」


あいつに気遣われるなんて・・・複雑だ。





「ええ子やなー?奈々ちゃん」


肩を抱き寄せられて、哲平の胸に凭れ掛かった躯を少し離す。





肩を抱いてくる哲平の手は力強くて。
無理に剥がそうとしても無駄だろう。





「・・・奈々子と一緒になって何か企んでんじゃないだろうな?」
「『何か』て何?」
「線香花火くれてやる代わりに何かしろ、とか」
「キスとかか?」


しまった、と思っても遅い。





墓穴掘ったと自覚した時には、俺の口唇に重ねられていた哲平の口唇は離れていった後で。
瞳が合うと、肩を揺らしてくつくつと笑っていた。





「・・・・・笑うな」
「馬鹿にしてんやないて。恭ちゃんが可愛えからやぁ」
「・・・前者の方がマシだ」


思いっきり嫌な顔してやると、ひらひらと線香花火をちらつかせて。





「機嫌直して?」
「とか云いながら、キスしようとすんなッ」


近寄って来る哲平の顔を押し退けて、長い指から線香花火を1本引き抜く。





「お前があんまり綺麗やから、キスしたなんねん」


カチンと澄んだ音がして、哲平がライターに火を点す。





「・・・馬鹿」


どうして真面目な瞳して、そんな馬鹿なことをさらっと云って退けるんだか。





気を取り直して、差し出された炎に線香花火の先端をかざす。





瞬間、パチパチと華麗な火花が飛んで、辺りに文字通りの花火が咲いた。



哲平ちゃんは派手な花火の方が好きそうです<あと振り回す(笑)



「地味やなー」


銜えたセブンスターに火を点けた哲平が、つまらなそうに呟く。





「お前なぁ、第一声がそれかよ」


パチパチと健気に咲く花火は派手ではないけれど、充分・・・。





「綺麗じゃないか」


火芯の周りに咲く花。
中央の火芯を見つめていると、徐々に火花が細かく小さくなっていく。





「・・・・・ぁ」


ポトリ、と落ちていく火芯。





僅かの火花と共にバケツの水に落ちて、消えた・・・。





「終わっちゃった・・・」


何と無く寂しい気がして、つい。
呟くと、腰に回された腕に抱き寄せられた。





「終わりやない」
「ん?」


頸筋に触れてくる、哲平の吐息と口唇。
見遣ると、綺麗に筋肉のついた鎖骨と胸元が見えた。





「まだ、終わりやないから。・・・そんな顔せんでくれ」
「哲・・・」


『そんな顔』って何だ?
訊こうと思ったのに、言葉には出来なかった。





「ん・・・っ」


セブンスターの苦味が、絡み合う舌に移ってくる。
傍らで『ジュッ』と音がしたのは、多分哲平が、吸っていた煙草をバケツの中に捨てたんだろう。





「ぁ・・・は、ぁん」


腰を抱く腕に力が籠って引き寄せられて、長い指が頬を撫でてくる。





角度を変えて口腔を貪られて、息が上がっていく。





甚平の襟元を握り締めると、髪を掻き上げられて。
その感触にさえ、背筋が震えた。





「あ、はぁ・・・っ」
「ホンマ感度ええなぁ」


溢れた唾液を舌先で拭いながら、頸筋を辿ってくる指先。
くすぐったくて躯を捩る。





「や、め・・・」
「誰もおらへんよ」


クスッと笑う声。





「馬鹿、云うな・・・っ」


鎖骨を滑って、浴衣を肌蹴させようとしてくる哲平の指を捕まえた。





「・・・もう、寂しないやろ?」


捕まえた指が俺の指に絡んでくる。





お互いの口唇が触れ合う程近距離にある哲平の口唇が、笑みの形になって。





「誰もおらんけど、オレがおるから。・・・な?」
「哲平・・・」


線香花火が落ちた時、俺ががっかりしたから・・・?





「ありがと」


何時も、驚く程ちゃんと俺を見ててくれるな、お前は。





「でも・・・そんなに心配しなくても平気だぞ」


お前が、居てくれるから。





「何云うてんねん。こんな色っぽい格好して・・・心配するに決まてるやん」
「な・・・あぁっ」


チュッと音を立てて頸筋にキスしてくる。





同時にするりと、解けた手が浴衣の合わせ目から忍び込んで肌を弄ってくる。





「こら・・・止め・・っっ」


汗ばんだ肌を撫でてくる掌。
馴染んだ感触に、躯がすぐに反応する。


敏感な反応も困った顔も可愛ぇし…



「あのボケ、ずっと恭ちゃんのコト見とったんやで?やらしい瞳ぇして・・・」
「あ、あぁっ」


胸の突起を摘まれて、ビクリと躯が震えた。





チクッと頸筋に刺激が走って。
哲平がまた、痕をつけたんだと解る。





「そんな訳、無・・・っ」
「恭ちゃんが気付く訳ないやんな」


浴衣の中で動く掌に、躯のラインを確かめるように触れられて。





躯が勝手に跳ねる度、哲平の甚平を掴んでいた手も揺れて、哲平の胸元が余計露になる。





「恭ちゃんが脱がしてくれるやなんて・・・積極的やね」
「違・・・も、止め・・・っ」


霞んできた瞳で睨むと、哲平の手が浴衣から出ていった。
・・・よかった。





「そんな色っぽい顔すんなや。・・・襲うぞ?ココで」


苦笑を漏らして抱き締めてくる。





「・・・もう、襲ってるだろ。充分」


キスするし。痕つけるし。・・・浴衣の中に、手とか入れるなよ。





土手を渡る夜風は結構冷たくて。
火照った躯を沈めるにはいいけれど、つい哲平の肩に腕を回してしまう。





・・・これがいけないんだろうなぁ、きっと・・・。
そう思っても・・・離れ難くて。





「全然足らんて。それに、ちゃんと止めたやんか」
「『ちゃんと止めた』んだったら、キスするんじゃない」


肩口に埋められた顔。
柔らかな口唇と熱い舌が、頸筋から鎖骨を這っていく。





「帰って続きしてええ?」
「・・・駄目って云ったって、止めないんだろ?」
「嫌がるコトはしたないけどやぁ。・・・恭ちゃんの浴衣姿見せられて、オアズケはキツイなぁ。・・・キレてもうたらごめんな?」


顔を上げた哲平が、さらっと恐ろしいことを云う。





「・・・怖いこと云うな」
「ほな我慢せんでええ?」
「・・・・・・」


何て答えればいいのか解らない。
駄目って云っても、いいよって云っても・・・結果は同じだよな?





「よう考えて、家着く前に答え教えてな」


惚けていると、顎を上向かされて再び口唇が重ねられる。





「ぁ・・・んん」


これの何処が我慢してるんだか。
何時も全然解んないんだけど・・・。





嬉しそうな顔すんな







「行こ、恭ちゃん」


花火のゴミを袋に詰めて。持参したバケツと一緒に持ち帰る。





土手の上に上がると、橋の向こう側の夜空を焦がす花火が上がった。





「あっちはまだやってるんだな」
「綺麗やんな」
「あぁ」
「花火に照らされた恭ちゃんが、やで?」
「は・・・?」


何云ってるんだと呆れていると、ゴミ袋とバケツを振り回していた哲平が飛びついてきて。





「せやから、またしよな?花火」


わざと耳許に囁いてくる。





「や・・・こら!悪戯するんじゃないッ」
「せやな。恭ちゃんまだ考え中やもんな。・・・どっちがええか大体決めた?」
「・・・・・両方嫌だ、に大分傾いてる」
「そんな選択肢無いで?勝手に三択にしたらアカン」
「・・・あんまりテンション上げないでくれ」


俺が嫌だって云ったら、しないつもりなのかもしれない。
でも、ちゃんと我慢出来る保障は無いって云うし・・・。





困って哲平の表情を窺うと、哲平の顔も花火に照らされてて・・・。




華やかな光を背にした姿に思わず見蕩れて



「・・・・・決めた」
「ん?」
「答え。決めたよ」


少しだけ足を速めて歩く。





お前が格好よかったから。拒否はしないでおくよ。





「え?ホンマ?どっち!?」
「帰ったら教えてやる」
「めっちゃ楽しみや〜」


躯がふらつく程抱き着かれてよろける。





「こら!外でじゃれるんじゃないっ」
「うんうん!早よ帰ろー」


俺がどちらの答えにしたのか、云わなくたってお前には解ってるんだよな。





満面の笑顔で俺の手を引く哲平の横顔を見れば、解る。





「でも・・・お前のやり方って卑怯だぞ?」
「恭ちゃん堕とす為やったら何でもするわ」


ニヤリと笑って見せるその顔も、悔しいくらい格好よくて。





「何でもって・・・馬鹿なこと、云うんじゃない」


云われた台詞も相当照れ臭くて、益々顔が紅くなっていくのを誤魔化すように呟いた。





「可愛えー」
「・・・可愛くないっ」












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真改様より、残暑お見舞い のお返しに戴きました!
掲載準備がなかなか整わず、のろのろしてる間に真冬になってしまうという
体たらくで申しわけありません;;;(※今は12月←幾ら何でも遅すぎるだろう)

残暑お見舞いイラストのシチュエーションそのままに、
ラヴラヴ哲恭な「続き」を書いて戴いて本当に嬉しゅうございましたー♪
拝見した時に、線香花火の火芯がぽとりと落ちてちょっと寂しそうな顔しちゃう恭ちゃんとか
まだ上がっている打ち上げ花火の逆光に照らされる哲平ちゃんとか
嬉しそうに手を繋いで帰るトコとか絵になるよなあ〜描きたいなーと
思って居たのですが、実際描いてみるとどうだろう(微妙…?)

やはり花火は良いですねー♪(浴衣もね!)
打ち上げも派手なのもしっとりなのもいい。
線香花火を描く際に、色々調べて東と西で形状が違うという事実にも
驚きましたし…。(←でも今回ちょっと誤魔化した(笑))

夏の暑い日にじゃれてくっつくと「暑い!」って怒られますが、
夜風に晒されるとひんやりしますし、二人で仲良くイチャイチャしてれば
いーと思いますよvv(←それ一年中)

真改さま、素敵なSSをどうも有難うございましたー♪
                        (→おまけとか没絵はこちら


真改さまのHPはこちら→CAPRIさま

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