花珠し火
「なあ、恭ちゃん。8月終わる前に花火せえへん?コンビニで売っとるやろ、セットの。うちの庭先とかでどや」
「…うーん、花火は、好きなんだけどさ」
とろとろと眠る前の、寝物語に言うてみた。
恭介の狭いベッドから落ちんように、てのを口実にして、後ろからぺたりと抱き着いとる。
暑い暑いと恭介嫌がるけど、眠いんか払い落とそうとするようなことはなかった。
「なんかヤなんか?」
「絶対線香花火入ってるだろ?」
囁くように小さな声に、恭介の目が覚めて来とると気付く。
他愛ない話で、眠りの邪魔するような話題やと思わんかったわ、と胸ん中で舌打ちする。
とりあえず、引っかかりはこうなったら吐き出させんと、恭介の夢見が悪うなる。
「いや、昔は友達とさ、誰が長く落とさないでいられるか、って競ったよ。
でさ、子供ってよく何の気もなく言うだろ?」
恭介が口に出したがらんようなこと、んで、子供がおもしろがって言うようなこと…
「…恭介んとこでも、線香花火の玉が落ちた順が、寿命順やとか、いうやつおったんか?」
「…いた」
全国共通か、まあそんなんもあるかもな。
益体もないことに、ガキってのは自分と縁はない思うて、生き死にと関連付ける。
「でも、恭ちゃん落ちついとるやん、ああいうの、落とさへんやろ」
じーっとおっきなまま揺らさんで持ってんの想像付く。
ま、誰かに後ろから脅かされたりして落としてんのも想像付く…
オレが一番やりそうやけど、あと奈々ちゃんと。
ってそれはあかん、あかんで。
「俺だけが、落とさなくてもさ」
…ああもう、ホンマ恭ちゃんは雨の日とか夜とか、たまに弱気になるな。
後ろから抱きしめてたのを、真正面になるように寝たまま無理やり向きなおさせる。
で、恥ずかしいコト言うから、顔見られんように肩口に顔を抱き寄せた。
「大丈夫や、オレ恭介よりずるいからな?」
「…うん」
「どんな方法使うても、火の玉落とさへんよ」
落ちても、恭介にだけは、落ちたなんて気付かせたりせんよ。
最後に言おうとしたことだけは、言葉に出すことはせんかった。
ただ多分、オレが恭介を悲しませるようなことはせえへんと、ちいさく呟いた。
肩口で、安心したように笑う吐息がかかる。
「頼むぞ、本当にさ」
心底安心したような声で言うてくれるから、もうちょっとだけ腕の力を強うした。
「寝よ、寝て、明日花火買いに行こ?」
「…うん」
しばらくして、寝息が聞こえてくる。
少し身を離して、すやすや眠る横顔のラインを、少しだけ撫ぜた。
少しむずがるように顔を顰めて、それからまた眠りに戻るの確認した。
ええ眠りについとる見たいや、て安心して。
でも、詰め合わせのや無うて、派手で綺麗な楽しいんだけ、選んで買うてこよ。
恭介には、もう笑うてだけいてほしいし、な。
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鈴木様よりSSを戴きました!
夏のご挨拶、MPver.「花火」のお礼に、という事で
こちらは線香花火をモチーフにしたしっとりなお話です。
私は線香花火って(他の派手な花火に比べると地味ですけど)
綺麗で好きなんですよねえ…。
ぽとりと落ちる玉に儚さを感じてちょっと寂しくなる所もまた良き哉。
”誰が一番長く、花火の玉を落とさないでいられるか?”
子どもの頃ってこういう競争もしましたねー。
ちろちろ燃える花火の玉にひとの魂(寿命)を重ねて
落としたら死んじゃうよー、なんて簡単に言うけれど。
本当に小さい頃、実際にひとの生き死にに
関わってしまった恭ちゃんは、実際にはそんな事無いと
解っていても、そういうコトを口にしたくないんですね…。
「俺だけが、落とさなくてもさ」
という恭ちゃんはやっぱり人の事を真っ先に考えて
あげられるコなんだよなあ、と改めて思いました。
そして、いつも前向きで強い恭ちゃんが、
偶に弱気になる所を見せられるのは、
やっぱり哲平ちゃんが傍に居てくれるから
じゃないでしょうか…。
線香花火のように、心の奥にぽっと丸く灯るような、
素敵なお話をどうも有難うございましたー!!
そして入り切れなかった挿絵の全体図と
おまけイラストはこちらから→■
鈴木様のHPはこちら→
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